私の父母が市営住宅に越してきたのは昭和30年頃である。その頃は市営住宅の一角でありながらなぜかうちの家だけ広かったので少し自慢げであった。もっとも後から考えると祖父母もついてきたので、全員が使える大きさの家を選んだだけのことなのだろう。いつの頃からか住宅全体が民間に払い下げられたが、私には関係ないことだと思っていた。
近所には同じ年頃の子供がたくさんいて、毎日遊びまくっていた。今見ると、なんとか車が1台通れるかどうかの、驚くほど狭い路地で色んなことをして遊んだ。今から思えば、市営住宅に入ったのが新婚さんが多く、同じ時期に出産したためで別に何も不思議なことはない。私がそうしたように子供もやがて成人して、結婚し家から出ていくと老人ばかりになってしまった。
老人ばかりなら残念ながら死亡率が高い。老人が死んでしまうと更地にして返せと地主が言うらしい。たいていの人はそれに従っているが、考えてみれば、定期特約付借地契約が定まったのがずっと後のことなので、この特約は違法である。
先日初めて地主を見たが、なるほどそのような顔をしている。お代官様に媚びを売る越後屋の顔だ。水戸黄門には越後屋は出てこないらしいが(越後の縮緬問屋というため)。母によくよく話を聞いてみると更地にするか500万円出せと言うらしい。金の亡者である。亡者とは欲に憑りつかれた者のことだが、元々は成仏できずに彷徨っている魂のことである。おかげで実家の周りはすっかりお花畑になってしまい、アレルギーのある私は大変行きにくいところになってしまった。
いつか亡者となった悪人を倒してやる。金はあるけどお前には払わん。

亡霊

お代官様と越後屋
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